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自己愛性人格障害(343) 人間交差点「あこがれ」

 人格障害者が執拗に行なう「本人にしかわからない嫌がらせ」というものを、何度か書こうと試みて、言葉で表現する事の難しさを感じている。他人には嫌がらせに見えない、だけど本人には確実に嫌がらせだとわかる行為を人格障害者は行なう。過去の記事を読み返すと、「自己愛性人格障害(319) 本人にしかわからない嫌がらせ」と「自己愛性人格障害(145) 人格障害の被害が理解されない仕組み その1」で二度、ワシはこの事に触れている。しかし個人的にはいまひとつ「これだけじゃないんだよな~」という思いが払拭できず、いずれ改めて書こうと思っていた。ところが凄い漫画があったので紹介したい。「面白い」ではなく「凄い」漫画である。これがワシが書きたかった事だと思った。弘兼憲史「人間交差点」22巻に収録されている「あこがれ」という短編である。

「あこがれ」に登場人物は3人。母親と娘、そして叔母(夫の妹)である。母親が白髪交じり生活感ある初老の女性、叔母が美人でいつも身なりをきちんと整えている女性として描かれている。そして娘はお手伝いさんと一緒に作業着で掃除をするような母親よりも、和服をきれいに着こなし華道を嗜む叔母さんに「あこがれ」ていた。これがこの短編のタイトルの由来となっている。


この美人の叔母さんが死んでしまう。葬儀を終えた後、母親は叔母さんの遺品をホッとした表情で全て処分してしまう。生前は普通の関係に見えた母親と叔母さんだったが、その時の様子に違和感をおぼえた娘が、母親にたずねる。「ねえ、叔母さんのこと、どう思ってた?」。母親は突然の事に少し驚くが、本人が死んだ今となって「意地悪だったからねえ」と言う。これに今度は娘が驚く。自分にとって美人で優しかった叔母さんの事を、母親は意地悪だったと言う。意外な告白に信じられない顔をする。「陰でね、随分いじめられたわよ」


おおよそ、人格障害者の被害はこのようなものだと想像する。当人たち以外にはわからないような手口で嫌がらせをするので、周囲の人はそれに気付かない。それをこの母親は「陰で」という表現をしている。表向きはそんな事をしてませーんという顔をし、指摘したら「気のせいです」「そんなことしてません」「被害妄想です」「疑われた自分こそ被害者」などと言われるのがオチであろう。人格障害者はあらゆる詭弁を使っても自分が嫌がらせをしていたなどとは絶対に認めない。まさにこの箇所はそれを表している。

さらにもうひとつ人格障害者を示唆するポイントが「同情を引こうとする」点にある。人格障害者ウッキーは実際に足に障害があるのだが、その障害を同情を買うために最大限利用していた。自分自身でも人生が不遇なのを足の障害のせいにしていた。よく芸能人が「実はナントカって病気でした」と告白するニュースを見るが、病気は本当だろうし頑張ってもらいたいとは思うが、それを公表することで世間の耳目を引こうという意図が見えると興醒めである。この場合、叔母さんは病弱で普段は床に臥せっていたという設定になっているが、母親は今だからということで真相を伝える。「叔母さんは体なんか悪くなかったんだ」「あの人は体が弱いふりをしていたの」。

ずっと美人で優しい憧れの叔母さんだと思っていたが、実は母に裏で意地悪をしており、病弱だったのも仮病だったと母は言う。にわかに信じられない話である。案の定、娘は最初は信じようとしなかった。むしろ、母親が死んだ叔母さんの悪口を言っているように感じ、「ちょとお母さん、いくら何でも、そんな嘘をついちゃよくないわよ」「ちょっとお母さん、それって被害妄想じゃないの?」といささか母親をたしなめるような口調で反論する。

そこで母親は具体例をひとつ挙げる。母の夫、つまりこの娘の父は非常に躾に厳しい人で、特に娘が服を汚したりすると、躾がなっていないのは母親の責任だと暴力をふるうDV夫であった。そのことがどうして叔母さんの意地悪に繋がるのか? 叔母さんが娘の服を汚したわけではない。母親は言う「汚れるように仕向けていたことだけは確かね」。


人格障害者は責任逃れが出来るよう、自分で直接するのではなく、そうするように周囲を仕向ける手口を使う。簡単な話で言うと、マギー四郎がリンゴを出す手品をする時、あえて観客にたずねる。「何か好きな果物を言ってください」。客がミカンと言うと「ミカンは今、売り切れなんだよね」、スイカ・・・「スイカは季節が違うんだよね」、じゃあリンゴ・・・「ハイわかりました。ではリンゴを出しましょう」と、自分の意図するところに誘導しつつ、形式上は客が自由意志で選んだものを出す体をとる。あくまで相手が決断した、「相手から提案したという形をとる」のである。北九州監禁殺人事件の主犯である松永太は、自分では手をくださず、脅しやほのめかしを使って周囲に殺害させていた。松永太の供述調書の一部が公開されている。人格障害者がここまで本音を吐露しているのも珍しい。

「私はこれまでに起こったことは全て他人のせいにしてきました。私自身は手を下さないのです。なぜなら、決断をすると責任を取らされます。私の人生のポリシーに、『自分が責任を取らされる』というのはないのです。私は提案と助言だけをして、うまみを食い尽くしてきました。責任を問われる時代になっても私は決断をしていないので責任を取らされないですし、もし取らされそうになったらトンズラすれば良いのです。『人を使うことで責任をとらなくて良い』ので、一石二鳥なんです。」

このような嫌がらせを叔母から受けていたにも関わらず、母親は叔母が生前は特にそれを口にすることなく、ただ黙って耐えていた。その理由として、本能的に人格障害者に何を言っても無駄であること、指摘しても認めないだろうこと、そして周囲に説明しても「そんなことするはずない」「考え過ぎ」「被害妄想」だと逆に言われる事を想定していたからだろう。実際に先述のように娘は「被害妄想じゃない?」「そんな嘘を言ってはいけない」と母親をたしなめている。そして、これが心が痛くなるセリフなのだが、「私が父さんに暴力をふるわれていても、それを叔母さんが喜んでいるうちは、それ以上の意地悪はしないと思っていた」からだと言うのである。典型的な被害者の思考でつらい。この時はそうやって自分を納得させていても、その嫌がらせは心の中に堆積していき確実に心を蝕み、後に振り返って取り返しがつかないくらい精神的に後遺症が残るはずである。


前回まで5回のシリーズで「ストーカー被害」と題し、頭のおかしい男に嫌がらせをされた話を書いた。言論でのやりとりにおいて、非を認める事も出来ず、かといって反論も出来ず、だから嫌がらせしてやる、という思考の飛躍が異常な部分だが、その時、何故にストーカー吉井は嫌がらせをするのだろうかと考えたりしていた。一体、奴は何がしたいのだろうか。何が目的なのだろうかと。それがこの母親のセリフの中に書かれている。「私が父さんに暴力をふるわれていても、それを叔母さんが喜んでいるうちは、それ以上の意地悪はしないと思っていた」。なぜ嫌がらせなどするのか? それは単に相手が困る顔を見たい、他人の不幸を喜ぶという、人格障害者特有の動機だと思うのである。「他人の不幸を喜びたい、不幸がなければ自分から他人の不幸を作ってやれ」、これが人格障害者どもの嫌がらせの動機ではないだろうか。

改めて、この漫画「あこがれ」は凄い漫画だと思う。人格障害者の手口を非常にわかりやすく視覚化しており、「本人にしかわからない嫌がらせ」というものを見事に表現している。人格障害者が最も嫌がるのが無視、無関心でいられることである。嫌がらせだとわかっていても黙って耐える母親に対し、叔母さんは最後まで嫌がらせをして一生を終える事になった。その結末は実際に自分でこの話を読んでもらいたい。

■ 娘が憧れていたくらい美人で優しいなど、周囲への表向きの顔が非常に良い。
■ 同情を買うために本当は健康なのに、病弱なふりをしていた。
■ 本人にしかわからない嫌がらせをしていた。
■ 自分では手をくださず、そうするよう仕向ける手法をとっていた。
■ 母親が叱られるのを見て喜んでいた。
■ 周囲からは「被害妄想だ」「嘘を言ってはいけない」など逆にこちらが悪いと思われる。
■ 被害者側の心理として、この程度でそれ以上にならないのならと耐えていた
■ 最後の結末エピソードも含め、そこまでしないだろうという嫌がらせを実際にする

最初は凄いと思ったが、今は何だか気分が悪く吐き気をもよおすくらい、とても読むのがツラくなる程、的確に人格障害なるものの症状が盛り込まれている。作画は弘兼憲史だが、原作は矢島正雄なる別の人物である。この原作者は一体何者なのだろう。何故ここまで痒い所に手が届くような物語が作れるのだろう。人格障害という言葉は使われていないが、かなり衝撃を受けた作品であった。ワシが言葉で表現したかった「本人にしかわからない嫌がらせ」は、これが一番的確に描かれている。この作品を世に出してくれてありがとうと感謝している。

Posted on 2017-12-31 | Category : ブログ | | 6 Comments »
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コメント6件

 バモ | 2018.01.07 2:14

せんちさん、新しい年が健康でよい1年になりますように。
今読ませていただいて、本箱探しまくりました。
『人間交差点』『黄昏流星群』好きでずらっと並べてるのにありません。探してるのに限っていつもありません。
22巻注文しに行きます。
弘兼さんの絵がていねいで好きです。原作も深くとても共感します。教師びんびん物語の脚本、矢島さんだったのですね。
西岸良平さんの漫画も好きです。
子供の頃から漫画で字も夢も学びました。こんなコメントですみません。
せんちさん、文章の一行一行…感謝しています。

 でらせるな | 2018.01.07 7:42

おはようございます。
この漫画はずいぶん昔に読んだはずなのに、特に記憶していませんでした。
ネットであらすじを確認して、ああそうきたか、と思いました。
記憶に残らないくらい「普通の出来事」だったのかもしれません。
当時は自己愛という名称は知らずとも、今思えばこういう類の連中はまわりにゴロゴロいたんだと思いました。
いい人ぶりやがる、二重人格、要領がいい、自分より劣ると決めつけた人間を引き立て役に置いたのに引き立て役が人に好かれていたり楽しそうにしていたら人前では一緒に喜んでみせるが、陰に回って引き立て役に対して人格否定する雑言をあびせる、他人が怪我や病気で苦しんで人に注目されると自分も軽く指なんか怪我したように包帯とかしてくる、身内が重い病気で入院したり手術したりして気の毒なひとがいると、わたしの身内だって!と、わけのわからんことで張り合ってくる…などなど。
ゴロゴロいました、今も強烈なのが一人いて困ってます。

この漫画のお母さんの気持ちがすごくわかります。
最後の嫌がらせに対して冷静に下した行動も、すごくわかります。ばーか、ザマアミロじゃねぇよ、消えてくれてありがとさん、なカンジだったと思います。

 せんち | 2018.01.12 8:00

*** パモさん
*** でらせるなさん
この22巻の「あこがれ」は快心の作だと思いました。
特に叔母さんが詐病を使っている設定に驚きました。
完全な創作ではなく矢島さんにも経験があるのではと思ってしまいました。

 でらせるな | 2018.01.14 7:24

おはようございます。
自己愛はタゲ本人にしかわからない嫌がらせをする、というくだりについて。
現在職場にいる女は、経理という仕事を盾に取り、タゲの給料の手取りを減らすという技を使っていました。
月給制で、残業もほとんどない職場のため、どういう手口を使っていたかというと、社会保険料の本人負担額を、通常のランクよりも2ランクほど上乗せして天引きしていて、タゲさんは何年もの間、毎月1万超も手取りを減らされ続けていた…

しかもタゲさん本人は全く気づいておらず、職場で、女の横領を調べていた別ルートが気づき、タゲに教えてあげた次第です。

という訳で、タゲ本人すらも気づかない嫌がらせ?と言うのか、これは嫌がらせじゃないんですかね(笑

 あいうえお | 2018.01.18 2:49

人格障害の特徴として勝ち負け思考、というのがありますが普通の人でも
例えばスポーツなどをすれば当然勝つことを目指しますよね。しかし、人格障害の勝ち負け思考というのは普通の人の勝ち負け思考ではなく「他人より少しだけ秀でていたい、自分が勝つことによって他人の落胆する顔を見たい、他人を馬鹿にして周囲の人と笑いものにしたい」なんです。普通の人のようにスポーツの試合で勝った!とかじゃ多分駄目なんでしょうね。それこそ、他人を蹴落としたときに感じる優越感のようなものでないと満足できない。普通の人のように平凡な幸せを幸せとは思えない。だから、わけの分からない噂や悪口を流してトラブルを起こし他人をいじめる。
刺激が欲しい刺激が欲しい。自信を持ちたい。しかし趣味をしても大して幸せを感じられない。自信がないから外面を良くして外見を飾り立てるがやっぱり自信がない。 
唯一、他人より自分は優れている、恵まれている、誰かが苦しんでる、と認識出来たときだけ、束の間の、束の間だけど強烈な幸せを実感できる。自分は凄いと万能感に浸れる。 人格障害の思考回路はみんないっしょで、みんなやだ。

 yom | 2018.01.18 12:46

あいうえお様、全く共感します。
゛刺激が欲しい゛人と穏やかな仲の良い日常なんて退屈なんです
相手の悔しがる顔、ショックを受け落ち込む顔を見たいのです
その瞬間強烈な快感を感じる、快感は繰り返し欲求を呼び
我慢することができず異常かどうかの判断すら飛び越して実行する事だけを考える
目標達成力と策を弄する思考力、記憶力は尋常では無く即座に対抗できるものではありません。
また仲の良い人同士が喧嘩をすると、まるで常識人のように穏やかに〝ゆったりと〝 仲裁に入る
内心面白くて仕方ないから、まぁまぁと変に余裕しゃくしゃくなゆったり感で目が笑っている
一番ご満悦なのは、直接いじめるよりも前もって仕掛けておいたショックの種が効力を発揮した時です
自分が悪者と分からず、そ知らぬ顔で相手の不幸を高所から眺める
計画を成功させた自分の賢さに神的な万能感を感じるのではないでしょうか
しかし他人もおバカではないのに、時間が経てば全て見通されるレベルです。

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